山の上の 白い家
理想郷がある。
仕事からの帰り途、駅から遠ざかり、山間にある道を登り、あたりは薄暗くなっていく。すると、坂の途中に一軒の灯りの灯ったBARがある。看板には、青いLEDで「BAR」とだけ点灯している。帰途がまだまだ半分以上残っていて、家は坂の上の頂上に近い所に建っている。疲れてつい、ふらっと立ち寄ってしまう、いつもの店。中に入ると薄暗い灯りの中に、店主がいつもの角の席に案内してくれる。
人も疎らな中、角の席の窓からは、夕暮れ迫った街並みが一望できる。少しのアルコールを頼み、夕暮れから夜に移り変わる風景を、静寂と微睡みと、現実からはなれたような空間を漂いながら、ただ、静かに見つめる。
店主が一口のお酒と、小さな肴を持ってきてくれる。ここは、店主と向かい合わせでもなく、誰かと話すでもなく、角の窓の外だけを見つめながら、少しずつお酒を飲む。少しずつ肴をつまむ。そして、完全に日が落ちるのを見つめながら、夜のしじまに精神を沈める。
完全に日が落ちると、そろそろ家に向かう時間が迫る。また、早めに仕事が終わったらここに来たい、と告げて、店を後にする。
さっきの様子とは打って変わって、もう外は寒く、真っ暗闇だ。しかし、ここの場所は特別だ。まるで、違う世界に入り込んだような気持ちになる。さあ、家に帰ろう。帰る家はもう少し。帰れる場所があるのは素晴らしい。でも、帰れる途中に、この場所があるのはもっと素晴らしい。一日の全てがここにあって、何もかもがこの世界に吸い込まれるように、なくなっていく。
山の途中にある、一軒家の飲み屋。
いつかそんな場所に巡り会いたい。
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